疾患別看護計画:気分障害

気分障害の看護計画

#1活動性が亢進し活動と休息の不均衡が生じる

目標:生活パターンを見直すことで適切な休息が得られ活動と休息のバランスが取れる
O-P
1 日中の活動状況
2 夜間の睡眠状態
3 夜間不眠時のようす
4 睡眠不足からくる身体衰弱
T-P
1 スケジュールの中に休息、昼寝、安静の時間をつくる
2 刺激が少なく穏やかで落ち着ける環境を整える
3 夜間不眠時の対応
a 覚醒していても無理に眠ることを勧めず覚醒状況を見守る
b 眠らずに選択したり徘徊してもその行動を咎めたり直ちにやめさせない
c 患者の自尊心を傷つけないように注意し依頼する形で同意が得られれば指示された睡眠剤を与薬する
4 他患者に悪影響を及ぼす場合には医師の指示により対処する
5 就寝時には照明を暗くするなど静かな環境をつくる
E-P
1 活動する時、休息する時は区別し日常生活にリズムを作るように指導する
2 眠れない場合は我慢しないで報告するように説明する

#2躁状態にて他患者とのトラブルが生じる可能性がある

目標:気分が落ち着き、トラブルを起こすことなく円滑に入院生活を送ることが出来る
O-P
1 日常生活のようす:多弁、多動、活動性の亢進
2 他患者との接し方
3 看護師との接し方
4 言動の内容:易刺激性、興奮、攻撃性、暴言、暴力
5 患者自身の抑制力の程度
T-P
1 他患者に対して悪影響を及ぼす恐れのない場合は、行動の見守りとし悪影響のある場合は患者と話し合い活動範囲を決める
2 他患者とトラブルに発展しそうな状況になれば、看護師が間に入り調整する
3 些細な事や無理な自己主張にも反応し興奮しやすいので、感情的にならず余裕を持って言葉遣い・態度に注意し対応する
4 次々と要求を出したり訴えたりしても患者に振り回されないように一貫した態度をとる
5 患者と約束したことは必ず守り待たせない
6 レクレーションのリーダーシップを依頼するなど、患者のエネルギーをプラスの方向に発散できるように対応する:症状に応じてレクレーション負荷、あるいは見学の指示があればそれに沿って対応する
7 気分が高揚し自我感情が亢進している患者に説得することは、あまり意味の無いことを知った上で接する
8 出来るだけ個室に移し静かな環境を整える
9 療養上の枠組みを守れるように援助する
10 患者のなにが期待されているか伝え、患者と共に到達目標を決める
E-P
1 日課、処置、検査などは簡潔に説明する
2 不安・怒り・怖れ等の感情を行動ではなく、言葉で表現するように指導する

#3抑制力の低下により逸脱行動を起こす可能性がある

目標:自分の行動パターンを認識でき、自己コントロール力を身につけることが出来る
O-P
1 過去の対人関係や生活歴
2 乱費の有無、日課、処置、検査などは簡潔に説明する
3 精神状態:自尊心の肥大や誇大妄想の有無など
4 患者の行動が周囲におよぼす影響
5 入院生活への適応状況
6 患者の疾患に対する自覚や処置
T-P
1 自傷、他害、器物破損行為に対して冷静に対処する
a 普段から人間関係を保ち、話しかけやすい雰囲気にしておく
b 訴えを良く聴き、みだりに患者と議論したり感情的態度で接したりしない
c 患者は些細な刺激にも極端に反応しやすいので、看護師は自分の行動に注意しながら関わっていく
d 落ち着いた態度で根気良く接し、看護師は患者の興奮に巻き込まれないようにする
e 対応する時は、背中を見せるなど看護師の死角をつくらない
f 説得の効果がある時は説得を試み、それでもダメな場合は医師に報告し指示を仰ぐ
g 周囲及び患者自身に危険が及ばないように配慮する
h 必要に応じ、医師の指示により保護室入室又は部屋を交換し観察を密にする
i 看護師は複数で対応する
j 感情の言語的表現を助け、思いが伝えられるように配慮する
2 多買傾向に対して必要性を一緒に話し合い、協力が得られるように対応する
a 売店での買い物時には付き添い多量に購入する場合には注意する
b 患者と話し合い、1回の買い物の金額を決めておく
c 高価なものを買おうとする場合は患者と話し合い本当に必要な物か考えてみる
d 常態に合わせ必要時は医師から金銭使用制限の指示を受ける
3 無断離院に注意する
a 閉鎖病棟の場合:閉鎖ドアの開閉には十分注意し、きちんと施錠されたことを確認しドアを離れる。散歩中のエスケープには十分注意する。
b 開放病棟の場合:
4 問題行動の改善や適応行動が見られたら、その都度評価しながら好ましい行動を積極的に強化していけるように働きかける
E-P
1 常態が落ち着けば自分の行動について振り返るように指導する:その他に対処方法はなかったか、その行動がどんな結果を生んだか、その時の感情など
2 過去の失敗を悔やむばかりでなく、そこから学んだことを今後に活かせるようにしていくことが大切であることを説明する
3 家族や周囲の意見に耳を傾けることも自分のバランスを見るのに役立つことを説明する

#4行動にまとまりが無く注意散漫となることで食行動が乱れる

目標:栄養の必要性が認識でき落ち着いて食事摂取ができる
O-P
1 食事摂取量、時間、回数
2 食事中のようす:自室持ち帰りの有無
3 間食の有無
4 他患者との食物の授受の有無
5 体重の増減
6 多量の間食を持参していないか
7 栄養バランスの偏り、過食による消化器症状
T-P
1 患者を刺激しないようにそばに付き添い介助する
2 見かけの割に食事量が少ないことがあるので注意する
3 間食やたばこの量が過度に増加した場合には、理由を確認し減量できるように話し合う
4 患者の抑制力が弱い場合には、間食などを看護室管理とする
E-P
1 限度を守り適量をとるように説明する

#5気分や感情の高揚により身辺整理が出来ず、ベッド周囲が乱雑になる

目標:他患者と自分の所持品の区別が出来、身辺の整理ができる
O-P
1 身辺の整理状況
2 自分の所持品があるか
3 他人のものを取り込んでいないか
4 自分のベッド周囲以外の場所に所持品を乱雑に広げ、放置していないか
5 患者間での物品の貸し借りの有無
T-P
1 乱雑になっていても直ちに整理することを強要せず患者と共に片付けていく
2 環境整備時などを利用して定期的に整理する
3 病棟の物品、他患者の所持品を取り込んでいる場合には注意する
4 乱雑になっていても、患者にとって何らかの意味付けがあるので状況を把握した上で注意する
5 どのようにすれば乱雑にならず整理できるか共に考える
E-P
1 患者間での金品の貸し借りはしないように指導する

#6状態が落ち着いてくると今後の生活に対し不安を感じてくる

目標:不安を言語化し疾患に対する正しい知識を認識でき、今後の生活に自信を持つことが出来る
O-P
1 訴える内容の把握
2 家族など面会状況の把握
3 不安の内容
4 社会背景
5 疾患や治療に対する知識、考え方
T-P
1 退院後の生活についてゆっくりと相談する
2 患者の表現する内容を支持的に傾聴し受容的態度で接する
3 躁状態にあった時のことを振り返り、言語化してくための援助をする
4 不安の内容を一つ一つ明らかにして、解決策を見いだせるように共に考えていく
E-P
1 家族指導を行う
a 日常生活
b 社会生活:学校、職場
c 疾患へのフォロー:外来通院、内服
2 言動をコントロールすることの大切さを認識できるように説明する
3 再発の徴候について話し合い、症状出現時には早期に対処していくことの重要性を説明する
4 ストレスは再発の一因となるため、自分にとって何がストレスとなり得るかを予測すること、ストレスを感じた時に対処法を持っておくことは再発予防にもつながることを説明する

#7拒薬することにより薬物療法が正確に行われない可能性がある

目標:服薬の必要性を理解することが出来正確に服薬できる
O-P
1拒薬の原因を知る
a服薬時の態度や服薬に関する患者の訴え
b妄想体験の有無
c病識の有無
d患者や家族の薬に対する考え方
e医師との治療関係:服薬変更の説明の有無
f医師、看護師との信頼関係
g副作用の有無;アカシジア、尿閉、口渇、眼球上転発作、便秘など
T-P
1服薬の説明と介助を行う
a根気強く服薬の必要性を説明:時間をかけて何度も勧める、時間を空けて促したり、与薬者を交代したりする
b患者のプライドを傷つけないようにし、患者に合った介助をする:口の中へ入れる、手渡しをする
c上記をおこないそれでも拒薬した場合には医師に報告し指示を受ける
d患者の病気の苦しさを認めながら、今は苦痛を除去する為に薬の力が必要であることを説明する
e拒薬の原因を知り薬を飲むことは安全であると保障する
f薬の副作用を説明する
2服薬確認を行う
a必ず看護師の前で内服してもらう
b隠し持ったりする為服薬後の行動に注意し、ゴミ箱や洗面所などを点検する
c下の下に隠したり、コップの中に吐き出したりする為、含嗽や歯磨きなどで吐いていないか確認する
3主治医との言語を統一する:減量時、増量時、変更時
a錠剤、散剤、液剤、注射など患者の状態に応じ、医師に報告し患者に合ったものに変更する
b副作用でも種類の異なったものを使用したり、錠剤の数を減らせたりすることを説明する
4副作用への対応と副作用による苦痛を受容する
a薬の変更、減量
b抗副作用剤の併用
c副作用出現時の対応:アカシジア、眼球上転発作、尿閉、排尿困難、口渇、ふらつき、血圧低下、便秘
5看護師との信頼関係を築き、原則として力づくでの与薬は避ける
6医師の指示により薬物血中濃度を測定する
E-P
1主治医の協力を得て患者に合った服薬の必要性を説明する:その都度繰り返し説明し時間と手間を惜しまない
2どのような副作用があるのか説明し、多少の副作用が出現しても心配がないことを説明する
3薬物療法に対する理解の低い家族に対し、入院時、面会時、外泊時、退院時などの機会を利用して説明する
4入院中より退院後の自己管理に繋がる方法を意識して指導する

#8不安・焦燥感が強く、休息が取れない可能性がある

目標:不安を表出し、必要な休息をとりながら治療を継続できる
O-P
1抑うつ気分の程度
2患者の態度、表情、会話、服装
3気分の日内変動
4不安の内容
5休息に対する考え方
T-P
1出来る限り休息が取れるようにする
2安易に励ましの言葉を掛けない
3服薬を確実に行う
4信頼関係の構築に努め、患者が思いを表出しやすい雰囲気づくりを心掛ける
5精神療法的関わりをする
a病気は治療によって必ず治癒する
b今の状態は病気の為の苦しみである
c完全に良くなるには2~3カ月単位の時間が必要である
d治る病気なので命を絶つなどと言うことは考えない事を説明する。希死念慮のある場合は自殺しないことを約束する
e治療中病状には一進一退のあることを繰り返し説明する
f治療終了まで人生に関わる大きな問題についてその決定は延期するように説明する
E-P
1服薬の重要性と服薬によって生じる自律神経系の副作用をあらかじめ説明し心配ないこと、服薬の重要性を伝える
2自力で何とか治ろうと焦ると、病状は余計に悪化してくるので気分転換が出来休養が取れるように指導する
3治療中は苦しい時期があり焦ったり不安になったりするが、必ず治るので安心して良いことを説明する

#9意欲や活動性の低下によりセルフケアが不足する

目標:食事・清潔・排泄などの基本的なニーズが満たされる
O-P
1抑うつ症状、意欲
2セルフケア状況:食事摂取、清潔保持、排泄、活動状況など
3生活リズム
T-P
1食事に対する援助を行う
a患者の状態に応じて負担にならない程度に付き添い介助する
b食べられそうなものを工夫したり患者の思考に合わせたりする
c好む場所で食べられるように配慮する
d決して無理強いしないで食事中の様子を見守る
e頑固な拒食の場合には、主治医に報告し経管栄養、点滴などを考慮する
2清潔に対する援助を行う
a患者の自尊心を傷つけないように注意しながら身辺の整理、保清の介助をする
b洗面や歯磨きの声掛けをする
c洗濯などは、必要に応じて家族の協力を得る
3排泄に対する援助を行う
a活動性低下により便秘傾向となりやすいため、必要に応じて主治医に報告し下剤の定期的服用を考える
b定期的な声掛けによりトイレ誘導をする
c患者の自尊心を傷つけないように配慮する
d十分な水分摂取を促す
4混迷など抑うつ状態が強い時は全面介助を行うが、その際にも理由や目的を説明しながら行い、患者の驚異とならないように無理のないペースで活動を勧めていく
5臥床傾向が強い場合は、必要に応じて体位変換や四肢運動などを行い褥瘡や関節拘縮の予防に努める
E-P
1食事や清潔などを整えることの必要性について説明する
2焦ったり無理をする必要がないので自分のペースで活動するように説明する

#10抑うつ状態からくる睡眠障害の為夜間不眠となる

目標:睡眠の必要性を理解することで睡眠時間が確保でき熟睡感がえられる
O-P
1夜間の睡眠状態
2熟睡感の有無
3午睡の状況
4日中の活動状況
5眠剤とその効果
6根底にある問題
7環境的問題
8精神状態
9入院前の生活習慣
T-P
1不要な刺激を避け睡眠がとれるように環境を整える
a騒音の除去
b室温の調整
c照明の調整
2生活のリズムを整える
a軽い運動レクレーション趣味などに誘い気分転換を図る
b状態に応じて日中の活動を提供し離床を促す
3患者の睡眠・覚醒サイクルを支える為に眠前薬の時間を調節する
4眠ることを強制せず心配や気がかりなことがないか尋ね、眠れなくて苦しい気持ちに沿うようにする
E-P
1我慢しすぎず眠れなければ眠前薬を利用しても良いことを説明する
2眠れなかったことにこだわりすぎないように説明する
3睡眠を妨げる因子について説明する
a過食・過飲しないように説明する(就寝前は胃もたれするような食べ物や満腹するほどの食事はとらない)
b喫煙本数が過度にならないように説明する(興奮を避ける為就寝前には喫煙をやめる)
cコーヒー、紅茶、炭酸飲料などを過剰に摂取しないように説明する
4規則正しい生活習慣を身につけるように説明する

#11希死念慮があり自殺を企てる可能性がある

目標:自傷行為をすることが無く入院生活を送ることが出来る
O-P
1表情や言動
2希死念慮の有無
3現在のストレスの状態
4精神状態
5これまでの自傷行為の有無
6睡眠状態
7周囲の危険物の有無
T-P
1患者の訴え、行動、服装を良く把握しておく
2些細な言動に注意する
3常に看護師の視野に入れておくように見守る
4患者との良い人間関係を築き、患者自ら悩みを訴えられる関係をつくる
5危険物の取扱について注意する
a身辺の整理整頓を患者と共にしながら所持品の危険性の有無を確かめる
bベッド周囲の物品に注意する
cベルト・コード類は、医師の許可が必要である。禁止の場合はなるべく家人に持ち帰ってもらう
d針、ハサミ、缶切り、刃物、爪切りなどの使用時は看護師が代行又は、看護師付き添いで行い目を離さない
6下記のような場合には特に観察を密にし、注意を払う
a抑うつ状態から状態が好転した回復期
b昏迷状態(うつ病、統合失調症など)から症状の変化が出現した場合
c入院、転科直後
7自殺のサインを見逃さない
a入院直後の患者全員
b自殺企図の既往がある場合
cうつ病患者
d自責感、罪責感が強い場合、自殺念慮の強い時
e自責感、罪責感が強い場合
f不眠を訴え、ナースステーションにしばしば来るとき
g元気であった患者が、家族などの面会をきっかけとして急に沈み込んでしまった時
h頻繁に家のことを気にして電話連絡を強く要求して、同じことを何度も確認に来るとき
i自殺をほのめかす言動が見られた時
j入院後3~4カ月経過しても病状の改善が少なく、他患者との接触もなく一人で沈み込み、治療者側がその患者の秒後や個人的特徴をつかみにくい時
8希死念慮を訴える場合は、入院時に自殺をしないように約束する
9情報の伝達を徹底する
a自殺の恐れがあると思われた時は、患者に対しての注意点を検討し看護記録に詳細に記録する
b医師に報告し指示を受ける
10ベッドからの転落を防止する
11薬物の管理を十分に行う
a数回分の薬をためて一度に服用したり、市販の薬を購入したりすることのないように内服確認したり、所持品にも注意する
b病棟内の消毒薬などはできるだけ患者の目につかないような戸棚などに保管する
12自傷の欲求が強くなった時の対処法を患者と共に考える
E-P
1家族に現在の状況及び内服薬の説明をする
2外泊時は、不審な行動があれば早く帰院するよう説明する
3外泊時に自殺企図を起こした場合、電話で支給病棟に連絡するよう説明する
a遠方であれば近医で処置をする
b病院の近辺であれば帰院する
4外泊時は、家族に患者を一人にさせないように説明する

#12抗うつ剤による副作用が出現する可能性がある

目標:副作用を早期に察知し、医療者に報告することで身体に及ぼす影響を最小限にとどめることが出来る
O-P
1副作用の有無:口渇、尿閉、頻尿、眩暈、血圧低下、発汗、肝障害、催眠傾向
2症状の程度
3バイタルサイン
4検査データ
5薬剤の種類、量、投与時間
6薬物療法に対する理解度、考え方
T-P
1心気的訴えの多い患者の場合はとくに精神的なものだとされやすいので器質的異常がないか経過に注意する
2身体的異常を表現せず症状が進行してから発見されることが多いので、日常の細かい観察を怠らないようにする
3副作用に応じて主治医に報告の上、各々に応じて処置を行う
4患者の疑問や不安には丁寧に対応し、必要に応じて医師にも説明してもらうなど協力を仰ぐ
E-P
1身体的に異常を感じたら医師、看護師に申し出るように説明する
2事前に薬物療法の効果や出現しやすい副作用について説明しておく
3多少の副作用はあるかもしれないが、治療が進み軽快して来れば消失するので心配しないように説明する

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